故障診断と整備暦。 なり手がないのは、そういう事なんです。
自動車の故障探求は
非常に時間が掛かる場合があります。
それを少しでも短縮するにはイロイロあるのですが、
過去の整備暦が大きく影響します。
今回の故障探求は
整備暦がハッキリしているのに
少し遠回りした事例の紹介です。
トヨタ ウィッシュ ZNE10 走行距離19万キロ。
『車体の振動が酷いので見て欲しい』 と依頼されました。
このウィッシュは数年前から
弊社でリフレッシュ整備をさせて頂いています。
消耗・劣化していると想定される部品は
予防整備も含めてほぼ交換済みです。
この年式ぐらいのトヨタ車に多い
『Dレンジ信号待ちでの振動』
・エアエレメント交換
・ISCVの分解清掃
・エンジンマウント全数交換
上記3点の作業はすでに交換・整備はしています。
『Dレンジ信号待ちでの振動』
・完全暖機後
・ブレーキランプON
・ATシフト Dレンジ
・電気負荷OFF
この条件になるとECUによって
エンジン回転数は大幅に低く制御され、
500~550rpmまで引き下げられます。
(回転数を抑えて、燃料消費を少なくするのが目的)
その振動対策として1年前に
3点の整備を実施したのですが・・・。
来店時に『完全暖機後 Dレンジ ブレーキON』
を再現すると結構な振動が伝わってきました。
ただ走行加速時にもゴトゴト振動があるので
エンジン低下だけの振動ではないはず・・・。
サスペンション一式も弊社で交換済み、
もしかして足回りの取付ミスからの振動か?
でも足回りなら停車時は関係ないはず。 (2ヵ所の故障か?)
私の考えでは今までの整備暦で、
振動が出るのは考えられない。
まさかエンジン本体がダメなのか?
いろいろ考え・・・、もう一度チェックしよう・・・。
お預かりした翌日に試運転すると
最初のうちは加速時にも停車中も振動は無い・・・。
(勘の良い方ならココで目星は付いたと思います。)
(私もここでそう思いましたが、その部品は少し前に交換済み)
念のためエンジンのチェックからしてみます。
完全暖気後の排気ガステスト。
19万キロとは思えない完全な燃焼状態。
(O2センサー・スパークプラグなどは、もちろん交換済み)
また点火系にはイグニッションアナライザーで
スパークプラグ ・ イグニッションコイルのチェック。
アイドリング状態 660rpm
バーンタイム 1,97 mS
ピークボルト 7,5 Kvolt
この車両なら良好な数値。
エアエレメント / ISCVの整備暦から
上記2点の結果をみれば、
エンジン本体は問題ないでしょう。
(圧縮・バルブタイミングなどは、とりあえずOK)
(スキャンツールからISCV・VVTの駆動状態もOK)
少し前に交換したサスペンション関係は
マシ締め等のチェックをして再確認。
これも問題なし。
となると1年前に交換したエンジンマウントか?
トヨタ純正部品がこんな短期間に劣化する・・・?
でも工業製品であるなら、不良品がゼロもありえないだろう。
マウントの取付ボルトも再確認し、
問題ないので外してみました。
もうこれ以外考えられないしね・・・。
はずしたマウントのアーム部をネジると、ガタが多い。
人力でガタが出るぐらいなら、
エンジンのトルク・振動に勝てるわけがない。
新品部品の状態は分からないが、
これしかないので部品発注してみました。
数時間後には部品が到着。 (トヨタは早いね。)
新品マウントをネジってみると、
非常に硬くて全く違う。
裏もゴムブーツが膨らんでおり、元に戻らない。
液封入式マウント内部が破損しているのでしょう。
早速交換をして、試運転。
走行加速時の振動は無くなり、
Dレンジ停車時の振動も無くなりました。
(回転数は550rpmのままで)
結論 右エンジンマウントの不良。
お預かり翌日のマウントが冷えている状態では、
マウント自体が硬いのである程度振動を抑えていたのでしょうね。
エンジンマウントの正式名称は 『インシュレーターSAB-ASSY』
振動を遮断する部品になります。
もしエンジンマウントの交換暦が無ければ
真っ先に疑ったのですが、
今回はそれが裏目に出たようです。
少し遠回りしました。
結果から見ると、簡単な故障診断でしたね。
(国産純正部品でも、早期不良になる可能性あるようです。)
(輸入車の純正部品は、初めから信用していないですけど。)
お詫び
ウィッシュのオーナー様にはご迷惑をお掛けしました。
週末には他の依頼作業も完了し、お返し出来る予定です。
( もちろんクレーム修理ですから無料です。)
本日もミナト自動車ブログ 日々是好日に
お越し頂きありがとうございます。
今回は比較的簡単な故障診断の
様子を紹介してみました。
『この症状ならこの部品が悪い』と判断する事は、
自動車修理のジャンルの中では一番難しいものだと思っています。
(整備・板金・塗装をしている私的にはね。 異論は認めますよ~。)
自動車の構造を理解し、制御システムも把握。
そして整備暦から不具合部品にたどり着く。
時間と経験・知識&設備が必要で
本来、整備業界では花形になるはずなのです・・・。
ですが実際の現場では正当な診断料(対価)が頂けず、
また内外に対して評価されにくい。 (儲からない・時間が掛かる)
内 → 会社側・経営者
外 → お客様・ユーザー様
となると整備士は診断をせず、
(部品交換士)になり、士気も下がる。
数週間前の(自動車新聞社)様からの取材の中で、
『若い整備士の求人・雇用』についてお話がありました。
早い話が、なり手が無いそうです。 (しかも3K)
そりゃそうでしょう。
花形が隅に追いやられている業界に、
未来がある若者が来る訳ないですよね。
今日はこの辺で。